プランクトンのあしあと

一人魔の山・本番 (スイス#4)

行動に集中すると、感情は抑えることができる

出発の準備を淡々としていると、恐怖も迷いも、期待すらあまり沸き上がらない

午前3時、ホテルのドアを開けたら、ヘッドライトの光は白い霧の世界を弱々しく照らした

方向さえわからないが、見える範囲の地形を頼りに進む

一昨日にテスト登山していなければ、動けなかった

ベースキャンプを過ぎると、山肌に登山者達のヘッドライトがチラチラと見えた

ヘルンリ小屋を過ぎ、山肌に取り付く

適当な二人組登山者を見付け、フリーソロで着かず離れず追跡することにした



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夜が白み始め、自分の現在地が明らかになってきた

出発したのはあの雲海の下、視界がなかったのも道理だ

一眼レフは3.5kgなので悩んだがホテルに置き、撮影はiPhoneですることにした



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高度が上がると氷雪の上を進む機会が増えてきた

買ったばかりのピッケルを振るい、アイゼンの音を聞く

その使い方を試しながら進む

楽しんでいる場合ではないが、ちょっと楽しい



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頂にはお月様が先に登頂



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意味のわからない場所に突然、小屋が現れた

標高4003m、世界最高峰の山小屋らしい、ソルベイ小屋

ここまでの高低差1421m、山頂まで残り475m

少し予定より遅れているが、頂に立っている自分が、想像でき始めた



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あまり経験したことがないことだが、前触れなく瞬間的に全身の力が抜けた

目の前には誰かが亡くなった地点であろうことを示すプレートが岩に貼付けてある

とっさにその横についていた支点に、腰の管付カラビナをはめた

ソルベイ小屋を過ぎてしばらく急峻な登りが続き、垂直な北壁が足下に見える地点だった

北壁を覗き込みに行ったら、そのまま落ちる気がした

目的は、登頂ではなく生還に一瞬で切り替わったが、未練はなかった

問題は、休んでも体力が回復しないこと

そして、懸垂下降で降りる場所がどれだけ見付けられるかということ



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体力セーブのため、出来る限りロープを使用し懸垂下降で降りる

この状況ではこのような金属には命は預けるが、預けたくない腐りかけ残置スリングも時折やむなく使用した

完全に宙吊りになる地点もあり、ロープが引っ掛かって回収不能にならないか緊張

しかし慣れないロープの扱いでかなり時間を消耗してしまった

さらに気を抜いた瞬間にピッケルが落ち、くるくると氷河に消えていった



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行きと帰りでは、近いのだろうが多くは違うルートを進んでいたと思う

明らかに道を間違えた場合、もう戻れず落石の巣の上を横断することになった

自分の体重が岩に伝わらないように這う



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結局、天候は最高の状態になった

いよいよ高度が下がると、自分は死ななくてすむという意識が強くなってきた

同時に、夕方6時の最終ロープウェーに間に合わないことも明らかになってきた

帰国の飛行機は明日なので、どうしても今夜中にZermattに降りなければならない

知らない夜の山道、ホテルから標高差962m、本では10kmのコースを、荷物全て約25kg背負い・・



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「もう死なない」地点に到着した直後の写真をハイカーに撮ってもらった

気持ちは、言葉ではうまく表現できない

しかし、悩みはすでにゲンキンになっており、この先の作業を考えて晴れ晴れとも言えない



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ホテルに戻ると、スタッフが生きてたことを喜んでくれた

幸運なことに、これからZermattに歩いて降りる現地ガイドがいると教えてくれた

しかもどうやら、本に載ってるコースではなく、ショートカットの道のよう

足は死んでいるが、日本人の意地、ちょっと休みましょうなんて決して言えない

痛みも苦しみも何も感じないよう考えないよう努め、ポーカーフェイスでひたすらついて行く



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帰国後、両足の親指のしびれが数ヶ月続いたが、たぶんこの数時間の虚血状態のせいだと思う

体重が80kgになったら、ずっとしびれっぱなしなんだろうか

街の灯に迎えられた時には、もう真っ暗だった

しかしそれらはあまり暖かくなく、ホテルはフロント無人、高級過ぎとかばかりで、また宿を求め2時間ほど歩いた

さらに食事は深夜になったため、レストランも断られ続け、歩き続けた



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本日、登り約1500m強、下り約2500m、辿り着いたスペアリブ

普通の時に食べても美味しかっただろうが、この日のスパイスはただの空腹だけではなかった

レストランで出会った日本人ガイドさんは、今年すでに日本人の単独登山者が亡くなっていると言っておられた

帰国後に友人に言われて知ったが、それは日本を代表するトレイルランナーの方のことかもしれなかった






数時間眠ったら、朝5時の電車に乗り、Zermattを離れなければならない

この冒険の意味は、まだしばらく考えられないようだ
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by satogie | 2014-11-28 22:49 | <スイス> | Comments(2)
Commented by がっつん at 2014-11-29 11:54 x
こんなところでも命の遣り取りをされていたとは…。
今このブログを書ける状態にあって何よりです。
如何にもキヤノン…と思いきやあいほんでしたか∑(゚Д゚)
Commented by satogie at 2014-11-30 22:38
>ガトゥン
遣り取りというか、遣る可能性しかないかな・・
いつかリベンジするかはわかりません
君こそ後遺症なく、生きていてよかった。
世界のどこにいても、落石や暴走車やその類いに当たらないところはないね・・